演奏・演技を本物にする没入の仕方
技術があってもマインドがなければ残念
既存曲を演奏するとき、歌うとき。
「気持ちを込めて演奏する」
「自分の曲のように説得力をもって演奏する」
「曲(役)に入り込む」
こうした状態を実現するためのマインドの話をしたい。
私自身がボーカルなので歌で説明するが、楽器奏者の方は演奏に置き換えてほしい。
演技など、役を生きる表現をする人にも参考になると思う。
歌詞の気持ちを理解するのは限界がある
例えば歌唱において
「曲の気持ちを理解して歌いなさい」という指導がある。
理解というのは、もちろん情報整理としての理解ではない。
心での理解だ。
「この歌詞の気持ちが、私にはわかる気がする」と思って歌いなさいという指導だ。
〜あなたは私の 青春 そのもの〜
これを感情こめて歌いましょうというときに
「いやーーいつまで1人の男引きずっとんの!?私は男は複数つくる派やけん気持ちわからんわ〜!」
こう思いながら歌っていたのでは、没入感など生まれようがない。
私は、理解できない曲を歌う練習をしていたが
嘘をついている気がして、歌う曲を変えたことがあった。
だが、歌詞の気持ちを完全に理解できるということは、普通は起こらないのではないだろうか。
作曲者と同じ人生経験はしていないし、価値観も違うからだ。
そもそも、自分の価値観に完全に合致した曲に出会えることはかなり珍しい。
さらに、歌詞のない曲を演奏する時は、言語というツールがない分、よけいに理解が難しい。
この交響曲はこの国のこういう時代背景に作られて〜という史実を把握しても、限界がある。
だが、
自分の理解できる曲を探さなくても
大量生産的に作られた、あまり気持ちが入ってなさそうな曲を歌うときにも
演奏に説得力を持たせられる、ひとつの方法がある。
なぜこの曲と私は出会ったのかを考える
楽曲という表面だけを見ているから、理解ができないのだと思う。
ではどうすればいいのか。
それは
「なんのためにこの曲はあるんだろう」という自分なりの答えを探すことだ。
なぜこの曲を私は歌うことになったんだろう ということを考えたことがあるだろうか。
それは「この曲を歌ってくださいとお願いされたから」ではない。
なぜこの曲を歌うことが、私に必要なのか。
この曲が私にとって、バンドにとって、楽団にとって、なぜ必要なのか。
そしてなぜ、今なのか。
「起きていることは全て正しい」
この概念をすでに持てている人であれば、
この曲を歌うことは私にとって必然だった。という思想までは辿り着ける。
その次は、
「じゃあ私にとって何のためにこの曲はあるのだろう」
これを掘り下げればいい。
出会った理由を、これから生きていきながら見つけていく。
当然、今は答えの全ては見つからない。
「なぜ今、この曲なのか。わからないけど、わかりたい」
この思いがあれば、それだけで曲に対する葛藤が入る。
自分の葛藤が入ると、自分の曲になる。
そしてそれが観客に伝わる。
大切なことは、
自分で用意する答えっぽいものは、自分なりの答えである必要がある。
「本当にこれで私は納得できるんだろうか、合ってるんだろうか」
あなたが歌に込めることができる感情とは、この迷いのことだからだ。
曲は、人である
さらに核心を言えば
「曲は、人である」という意識があるだろうか。
当然のことながら、楽曲には作曲者が存在する。
その存在を、意識しているだろうか。
この曲と出会ったということは、
作曲者と自分が出会ったということなのだ。
なぜ私はこの曲に出会ったのだろう、という問いは、言い換えれば
なぜこの人と私は出会う必要があったのだろう という問いと同じだ。
モーツアルトと私はなぜ出会ったんだろう。
じゃあモーツアルトってどんな人なんだろう。
作曲者と自分が出会った理由が
「こうだったらいいな」「そうであってほしい」というロマンチックな願いでかまわない。
むしろその方がいい。
正解かどうかが重要なのではない。
「こうであってほしい」という思い込みが強いほど、演技でいうところの、役の背景をつくることにつながる。
そうすると、表現に迷わなくなる。これが狙いだ。
自分の作品を自分で表現する人は
シンガーソングライターのように、自分で作曲をし、自分で表現(歌う)も担当する人がいる。
自分で作ったのだから、気持ちを込めることはできるはず!
そう思うだろうが、実はそうではない。
自分で作った曲なのに、曲の気持ちがよくわからない。
どうしてこの曲ができたのか自分でもわからない。
こうなるのは珍しいことではない。
なぜなら、ひらめきは文脈を無視して突然やってくるもので、
そこに理由を見つけることはできないからだ。
(心理分析をすれば、後付けっぽい理由は見つけられますが)
楽曲は落書きのように、適当に作ることもできる。
「この落書きは、どんな思いで描かれたのですか!?」と言われても「別に…」としか言えない。
そんな時も同じように
「なんのためにこの曲はあるんだろう」という自分なりの答えを探すことだ。
自分に対して、何のメッセージなんだろう、この曲は。
作るのは適当だったけど、この曲を生み出した理由をこれから探す。
順番は逆でいい。
「わからないからわかりたい」
「あなた(作曲者)に出会いたい」
優れた表現とは、無意識的にこれを表現しているのかもしれない。


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